発達障害、特にアスペルガー症候群に伴う収集癖やゴミ屋敷化の問題について、脳科学的な観点から解明が進んでいます。精神科医の視点から見ると、これらの現象は決して自制心の欠如ではなく、脳内の報酬系や前頭前野の機能特性が密接に関係しています。アスペルガー症候群の方は、特定の対象に対して非常に強い興味を抱く「限定された興味」という特性を持っています。この興味の対象が物理的な物体に向けられた場合、それを収集し、手元に置いておくことで脳内でドーパミンが放出され、強烈な快感や安心感を得ることができます。しかし、その一方で、不要な物を排除するための抑制機能が働きにくいという側面があります。ゴミ屋敷に至る背景には、脳の「認知の柔軟性」の低さが大きく影響しています。一度「これは価値がある」と定義した物に対して、状況が変わってもその定義を書き換えることが困難なため、結果として捨てられない物が溜まり続けてしまうのです。また、アスペルガー症候群の方は感覚処理の仕方が独特であり、物の視覚的なディテールに対して過敏に反応します。他の人が「古紙の束」として一括りに処理できるものを、彼らは一枚一枚の紙の角の折れ曲がりや色の微妙な変化として認識してしまい、その膨大な情報を処理する過程で「捨てる」という判断に必要な脳のエネルギーを使い果たしてしまうのです。これを実行機能の負荷と呼びます。治療や支援の現場では、まずこうした脳の仕組みを本人に説明し、自分自身の困難さを客観的に理解してもらうことが重要です。その上で、脳の負担を減らすための環境調整として、外部からの視覚的ノイズを遮断したり、決断の回数を減らすためのルーチン化を導入したりします。ゴミ屋敷は心の病というよりも、情報の処理プロセスのエラーの蓄積として捉えるべきです。薬物療法が有効な場合もありますが、基本的には認知の癖を理解した上での行動変容アプローチが主流となります。本人が不衛生な環境で苦しんでいる場合、それは脳が発しているSOSのサインであり、医学的な知見に基づいた適切なサポートがあれば、必ず改善の道は見えてきます。