ゴミ屋敷の相続放棄を検討している際、相続人を最も悩ませるのが、近隣住民や自治体との関係です。ゴミ屋敷は悪臭や害虫の発生、火災のリスクなど、周辺環境に多大な悪影響を及ぼしていることが多く、近隣からは早期の解決を強く迫られることになります。しかし、相続人が「相続放棄をするつもりだ」と近隣に伝えると、「自分たちには関係ないというのか」と感情的な反発を招くことが少なくありません。ここで重要なのは、相続放棄という法的な権利行使は、決して近隣を見捨てることと同義ではないと、法的に正しい説明を尽くす、あるいは専門家を介して伝えることです。自治体からの指導に対しても、安易に「自分が片付けます」と答えてはいけません。自治体の清掃指導に応じ、費用を自己負担したり被相続人の財産から支払ったりすると、前述した法定単純承認が成立し、相続放棄ができなくなる恐れがあるからです。相続放棄を予定している場合は、自治体の担当者に対し、「相続放棄の準備を進めているため、法的な理由により現在は勝手に処分することができない」旨を論理的に伝える必要があります。放棄が受理された後は、その物件の管理責任が次順位の相続人に移るか、最終的には国庫に帰属する手続きへと進むことになります。もし、相続放棄をした後も管理義務が残る場合、近隣の被害を防ぐための最低限の措置として、相続財産管理人の選任を検討しなければなりませんが、その旨も近隣に誠実に説明することで、不要なトラブルを回避できる場合があります。ゴミ屋敷問題の根底には、長年の居住環境の悪化による近隣の不満が蓄積されていることが多いため、相続人が一人でその怒りを受け止めるのは精神的に過酷です。弁護士などの第三者を入れることで、法的な境界線を明確にしつつ、解決に向けた道筋を示すことが、円滑な関係維持のコツとなります。相続放棄は、法的な縁を切る行為ではありますが、それによって生じる社会的な影響に対して、どのような態度で臨むべきかは非常に繊細なバランスが求められます。自分の法的権利を守りつつ、周囲への最低限の配慮をどう両立させるか。この難題を乗り越えてこそ、ゴミ屋敷の相続放棄という重い決断を本当の意味で完了させることができるのです。