ある事例研究を紹介します。三世代にわたってゴミ屋敷化を繰り返している家系において、その背景を詳しく調査したところ、遺伝的な特性と学習された行動が複雑に絡み合っている実態が浮き彫りになりました。祖父は戦場からの帰還後、極端な収集癖を持つようになり、その息子である父もまた、複数の趣味の道具を家中に溢れさせていました。そして三代目である孫の部屋もまた、足の踏み場もない不用品で埋め尽くされていたのです。この家系において注目すべきは、単に「片付けを教わらなかった」という環境要因だけでなく、彼ら全員が特定の物体に対して、異様なまでの執着と「情報の過積載」を示していた点です。彼らにとって、古い領収書の一枚、壊れた時計の部品一つが、捨ててはいけない重要な価値を持つ情報源として認識されていました。これは、アスペルガー症候群やADHD(注意欠如多動症)といった、遺伝的背景を持つ神経多様性の特性が、世代を超えて受け継がれている可能性を示唆しています。ゴミ屋敷化という現象は、彼らにとって外界の混沌から自分を守るための、防衛的な要塞を築く行為でもありました。しかし、外部の支援が介入し、断捨離を進める中で、彼らの中にある「整理できない苦しみ」に光が当てられました。遺伝的な特性ゆえに、一般的な「片付け」の基準が彼らには通用しなかったのです。そこで、色の判別や形に基づいた直感的な分類システムを導入したところ、彼らは驚くほどの整理能力を発揮し始めました。ゴミ屋敷という烙印は、彼らの能力が環境と不一致であった結果であり、決して血筋が呪われているわけではありませんでした。この事例が教えてくれるのは、ゴミ屋敷の背景に遺伝がある場合、必要なのは叱責や強引な撤去ではなく、その特性に合わせたオーダーメイドの支援であるということです。血筋という背景を正しく理解し、科学的なアプローチで環境を整えることで、何十年も停滞していた家全体の空気が一気に動き出す。断捨離は、単なる物理的な掃除を超えて、世代を超えた家系のトラウマを癒やす再生のプロセスとなったのです。
溜め込み症の家系に見る環境と血筋